V型8気筒エンジンの慣性力・偶力(シングルプレーン)

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概要

本ページはHTML5でSVGを使用しています。閲覧には、対応したブラウザを使用してください。
JavaScriptでエンジンの各図を動かしていますので、JavaScriptが動作するようにしてください。
以下のV型8気筒4ストロークエンジンについて解析する。
シリンダは前から左バンクが1,3,5,7、右バンクが2,4,6,8の順番である。
前から見るとエンジンは右回転である。
クランクシャフトは、シングルプレーンである。
点火順序は 1-8-5-4-7-2-3-6 とする。
点火間隔は720度/8=90度である。
バンク角は90度である。
クランクピンは左右バンクで共有している。
クランクピンの配置は、下図のとおりである。
1,2,7,8 3,4,5,6 SVGの代替画像
角度θ=
フォームに角度を入力して指定角度をクリックすると横断図・平面図・等角投影図が変化します。
自動回転をクリックするとエンジンが回転します。回転を止めるにはSTOPをクリックします。
平面図の右の正面図はエンジンのすりこ木運動によるクランクシャフトの軌跡です。
等角投影図は2次慣性偶力によるエンジンのすりこ木運動をエミュレーションしています。
等角投影図の赤い線がクランクシャフトです。
※θはクランクシャフトを中心としシリンダ1の上死点下死点方向から右回りの角度である。

各シリンダの横断図・平面図・等角投影図(2次慣性偶力)

z x y z y SVGの代替画像

特徴

市販車ではフェラーリぐらいしか生産していない。
レース専用車では出力を出しやすいのでシングルプレーンが用いられている。 大きな2次慣性力は発生するが、1次慣性偶力は発生しない。
メインベアリングは5個となる。

各気筒の行程

下図は青が吸気バルブが開いている期間、赤が排気バルブが開いている期間を示している。グラフの左側の数字はシリンダ番号を示している。
例えば左バンクに注目すると180度の等間隔に排気されている。
フェラーリに使用されている。排気干渉が発生しないのでV型8気筒エンジンの慣性力・偶力(クロスプレーン)より出力を出しやすい。
SVGの代替画像

1次慣性力

エンジンが1回転に1回発生する成分で、に係数を乗じたものである。
直列4気筒エンジンは1次慣性力は発生しない。
本質的に直列4気筒エンジンを左右それぞれに45度傾けて設置されたエンジンなので1次慣性力は発生しない。

2次慣性力

エンジンが1回転に2回発生する成分で、cos 2\theta に係数を乗じたものである。

上死点下死点方向を水平と垂直成分に分解する

R Rh Rv α L Lh -Lh Lv α 0 x y SVGの代替画像
αがバンク角の半分の角度、Lが左側の上死点下死点方向の力、Rが右側の上死点下死点方向の力、LhはL水平方向の成分、LvはLの鉛直方向の成分、RhはR水平方向の成分、RvはRの鉛直方向の成分を表す。
各成分は以下の式で算定できる。αが45度の場合も示す。
\displaystyle Lh=L \cos \alpha=\frac{1}{\sqrt 2} L
\displaystyle Lv=L \sin \alpha=\frac{1}{\sqrt 2} L
\displaystyle Rh=R \cos \alpha=\frac{1}{\sqrt 2} R
\displaystyle Rv=R \sin \alpha=\frac{1}{\sqrt 2} R

鉛直成分

直列4気筒エンジンを左右それぞれに45度傾けて設置されているエンジンとして解析する。
上死点下死点方向を垂直方向に変換する
各気筒を合成した慣性力は下式となる。
\displaystyle \frac{4}{\sqrt 2} ( \cos 2 \theta+\cos(2 \theta - \frac{1}{2} \pi))
\displaystyle =\frac{4}{\sqrt 2} (2 \cos (2 \theta - \frac{1}{4} \pi) \cos (\frac{1}{4} \pi ))
\displaystyle =\frac{4}{\sqrt 2} \frac{2}{ \sqrt 2} \cos (2 \theta - \frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =4 \cos (2 \theta - \frac{1}{4} \pi)
なので、2次慣性力は単気筒エンジンの4倍となる。
実際の慣性力の値は、以下のとおりである。
\displaystyle F=M \omega^2 \frac{S}{2} (\frac{1}{2 \lambda}+\frac{1}{64 \lambda^3}+\frac{15}{4096 \lambda^5}) 4 \cos (2 \theta - \frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =2M \omega^2 S (\frac{1}{2 \lambda}+\frac{1}{64 \lambda^3}+\frac{15}{4096 \lambda^5}) \cos (2 \theta - \frac{1}{4} \pi)
M:往復質量/気筒 S:ストローク ω:角速度 πn/30
n:エンジン回転数 rpm

水平成分

直列4気筒エンジンを左右それぞれに45度傾けて設置されているエンジンとして解析する。
上死点下死点方向を水平方向に変換する
右側の力を正とする場合、左側は反対向きなので、符号を反転して加算する
各気筒を合成した慣性力は下式となる。
\displaystyle \frac{4}{\sqrt 2} ( -\cos 2 \theta+\cos(2 \theta - \frac{1}{2} \pi))
\displaystyle =-\frac{4}{\sqrt 2} ( \cos 2 \theta-\cos(2 \theta - \frac{1}{2} \pi))
\displaystyle =2 \frac{4}{\sqrt 2} ( \sin (2 \theta-\frac{1}{4} \pi) \sin \frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =2 \frac{4}{\sqrt 2} \frac{1}{\sqrt 2} \sin (2 \theta-\frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =4 \sin (2 \theta-\frac{1}{4} \pi)
なので、2次慣性力は単気筒エンジンの4倍となる。
実際の慣性力の値は、以下のとおりである。
\displaystyle F=M \omega^2 \frac{S}{2} (\frac{1}{2 \lambda}+\frac{1}{64 \lambda^3}+\frac{15}{4096 \lambda^5}) 4 \sin (2 \theta-\frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =2M \omega^2 S (\frac{1}{2 \lambda}+\frac{1}{64 \lambda^3}+\frac{15}{4096 \lambda^5}) \sin (2 \theta-\frac{1}{4} \pi)
M:往復質量/気筒 S:ストローク ω:角速度 πn/30
n:エンジン回転数 rpm

4次慣性力

エンジンが1回転に4回発生する成分で、cos 4\theta に係数を乗じたものである。

鉛直成分

直列4気筒エンジンを左右それぞれに45度傾けて設置されているエンジンとして解析する。
上死点下死点方向を垂直方向に変換する
各気筒を合成した慣性力は下式となる。
\displaystyle \frac{4}{\sqrt 2} (\cos 4 \theta+\cos(4 \theta - \frac{1}{2} \pi))
\displaystyle =\frac{4}{\sqrt 2} (2 \cos (4 \theta - \frac{1}{4} \pi) \cos (\frac{1}{4} \pi ))
\displaystyle =\frac{4}{\sqrt 2} \frac{2}{ \sqrt 2} \cos (4 \theta - \frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =4 \cos (4 \theta - \frac{1}{4} \pi)
なので、4次慣性力は単気筒エンジンの4倍となる。
実際の慣性力の値は、以下のとおりである。
\displaystyle -2 M \omega^2 S (\frac{1}{32 \lambda^2}+\frac{9}{8192 \lambda^5}) \cos (4 \theta - \frac{1}{4} \pi)
M:往復質量/気筒 S:ストローク ω:角速度 πn/30
n:エンジン回転数 rpm

水平成分

直列4気筒エンジンを左右それぞれに45度傾けて設置されているエンジンとして解析する。
上死点下死点方向を垂直方向に変換する
右側の力を正とする場合、左側は反対向きなので、符号を反転して加算する
各気筒を合成した慣性力は下式となる。
\displaystyle \frac{4}{\sqrt 2} ( -\cos 4 \theta+\cos(4 \theta - \frac{1}{2} \pi))
\displaystyle =-\frac{4}{\sqrt 2} (\cos 4 \theta-\cos(4 \theta - \frac{1}{2} \pi))
以下の和積の公式を使って上式を解く
\displaystyle \cos a-\cos b=-2 \sin (\frac{a+b}{2}) \sin (\frac{a-b}{2})
\displaystyle =2\frac{4}{\sqrt 2} \sin (4 \theta-\frac{1}{4} \pi) \sin \frac{1}{4} \pi
\displaystyle =2\frac{4}{\sqrt 2} \frac{1}{\sqrt 2} \sin (4 \theta-\frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =4 \sin (4 \theta-\frac{1}{4} \pi)
なので、4次慣性力は単気筒エンジンの4倍となる。
実際の慣性力の値は、以下のとおりである。
\displaystyle -2M \omega^2 S (\frac{1}{32 \lambda^2}+\frac{9}{8192 \lambda^5}) \sin (4 \theta-\frac{1}{4} \pi)
M:往復質量/気筒 S:ストローク ω:角速度 πn/30
n:エンジン回転数 rpm

6次慣性力

エンジンが1回転に6回発生する成分で、cos 6\theta に係数を乗じたものである。

鉛直成分

直列4気筒エンジンを左右それぞれに45度傾けて設置されているエンジンとして解析する。
上死点下死点方向を垂直方向に変換する
各気筒を合成した慣性力は下式となる。
\displaystyle \frac{4}{\sqrt 2} ( \cos(6 \theta)+\cos(6 \theta - \frac{1}{2} \pi))
\displaystyle =\frac{4}{\sqrt 2} (2 \cos (6 \theta - \frac{1}{4} \pi) \cos (\frac{1}{4} \pi ))
\displaystyle =\frac{4}{\sqrt 2} \frac{2}{ \sqrt 2} \cos (6 \theta - \frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =4 \cos (6 \theta - \frac{1}{4} \pi)
なので、6次慣性力は単気筒エンジンの4倍となる。
実際の慣性力の値は、以下のとおりである。
\displaystyle 2M \omega^2 \ S \frac{9}{8192 \lambda^5} \cos (6 \theta - \frac{1}{4} \pi)
M:往復質量/気筒 S:ストローク ω:角速度 πn/30
n:エンジン回転数 rpm

水平成分

直列4気筒エンジンを左右それぞれに45度傾けて設置されているエンジンとして解析する。
上死点下死点方向を水平方向に変換する
各気筒を合成した慣性力は下式となる。
\displaystyle \frac{4}{\sqrt 2} ( -\cos(6 \theta)+\cos(6 \theta - \frac{1}{2} \pi))
\displaystyle =-\frac{4}{\sqrt 2} ( \cos(6 \theta)-\cos(6 \theta - \frac{1}{2} \pi))
\displaystyle =2\frac{4}{\sqrt 2} \sin(6 \theta -\frac{1}{4} \pi) \sin \frac{1}{4} \pi
\displaystyle =2\frac{4}{\sqrt 2} \frac{1}{\sqrt 2} \sin(6 \theta -\frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =4 \sin(6 \theta -\frac{1}{4} \pi)
なので、6次慣性力は単気筒エンジンの4倍となる。
実際の慣性力の値は、以下のとおりである。
\displaystyle 2M \omega^2 S \frac{9}{8192 \lambda^5} \sin(6 \theta -\frac{1}{4} \pi)
M:往復質量/気筒 S:ストローク ω:角速度 πn/30
n:エンジン回転数 rpm

1次慣性偶力

直列4気筒エンジンを左右それぞれに45度傾けて設置されているエンジンであり各バンクの中心に対してモーメントは発生しないが、左右間でボアの位置がずれているので若干のモーメントを発生される可能性がある。他のエンジンと異なり左右間のボアのずれも考慮して解析する。

左シリンダ1-3-5-7

シリンダ1

\displaystyle -(a+b)/2+2a=-a/2-b/2+2a=-b/2+1.5a

シリンダ3

\displaystyle -(a+b)/2+a=-a/2-b/2+b=-b/2+0.5a

シリンダ5

\displaystyle -(a+b)/2

シリンダ7

\displaystyle -(a+b)/2-a=-a/2-b/2-a=-b/2-1.5a
\displaystyle (-\frac{b}{2}+1.5a) \cos \theta + (-\frac{b}{2}+0.5a) \cos (\theta-\pi)-\frac{b+a}{2} \cos (\theta-\pi) -(\frac{b}{2}+1.5a) \cos \theta
\displaystyle =(-\frac{b}{2}+1.5a-\frac{b}{2}-1.5a) \cos \theta + (-\frac{b}{2}+0.5a-\frac{b}{2}-0.5a) \cos (\theta-\pi)
\displaystyle =-b \cos \theta -b \cos (\theta -\pi)=0

右シリンダ2-4-6-8

右シリンダは左シリンダに対して90度遅れて動作しているので左シリンダと同様にモーメントは発生しない。

結論

各バンクでモーメントが発生しないので、上下方向、左右方向のモーメントは発生しない。

2次慣性偶力

直列4気筒エンジンを左右それぞれに45度傾けて設置されているエンジンであり各バンクの中心に対してモーメントは発生しないが、左右間でボアの位置がずれているので若干のモーメントを発生される可能性がある。他のエンジンと異なり左右間のボアのずれも考慮して解析する。

上死点下死点方向

左シリンダ1-3-5-7のモーメントの合計

\displaystyle (-\frac{b}{2}+1.5a) \cos 2 \theta + (-\frac{b}{2}+0.5a) \cos 2(\theta-\pi)-\frac{b+a}{2} \cos 2(\theta-\pi) -(\frac{b}{2}+1.5a) \cos 2 \theta
\displaystyle =(-\frac{b}{2}+1.5a-\frac{b}{2}-1.5a) \cos 2 \theta + (-\frac{b}{2}+0.5a-\frac{b}{2}+0.5a) \cos 2 (\theta-\pi)
\displaystyle =-b \cos 2 \theta -b \cos (2 \theta - 2 \pi)
\displaystyle =-2 b \cos 2 \theta

右シリンダ2-4-6-8

シリンダ2

(a+b)/2+a=a/2+b/2+a=b/2+1.5a

シリンダ4

 (a+b)/2=-a/2+b/2=b/2+0.5a

シリンダ6

 (a+b)/2-a=a/2+b/2-a=b/2-0.5a

シリンダ8

 (a+b)/2-2a=-a/2+b/2-2a=b/2-1.5a

左シリンダのモーメントの合計

\displaystyle (\frac{b}{2}+1.5a) \cos (2 \theta-\frac{\pi}{2}) + \frac{b+a}{2} \cos (2(\theta-\pi)+\frac{\pi}{2})+(\frac{b}{2}-0.5a )\cos (2(\theta-\pi)-\frac{\pi}{2}) \displaystyle +(\frac{b}{2}-1.5a) \cos (2 \theta-\frac{\pi}{2})
\displaystyle =(\frac{b}{2}+1.5a+\frac{b}{2}-1.5a) \cos(2 \theta-\frac{\pi}{2}) +(\frac{b}{2}+\frac{a}{2}+\frac{b}{2}-\frac{a}{2}) \cos (2(\theta-\pi)-\frac{\pi}{2})
\displaystyle =b \cos(2 \theta-\frac{\pi}{2}) +b \cos (2(\theta-\pi)-\frac{\pi}{2})
\displaystyle =b \cos(2 \theta-\frac{\pi}{2}) +b \cos ((2 \theta-2 \pi)-\frac{\pi}{2})
\displaystyle =2b \cos(2 \theta-\frac{\pi}{2})

左右バンクを合成(鉛直方向)

\displaystyle -2b \cos 2 \theta+2b \cos(2 \theta-\frac{\pi}{2})
\displaystyle -2b (\cos 2 \theta- \cos(2 \theta-\frac{\pi}{2}))
\displaystyle =4 b \sin (2 \theta -\frac{1}{4} \pi) \sin (\frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =\frac{4}{\sqrt 2} b \sin (2 \theta -\frac{1}{4} \pi)
上死点下死点方向を鉛直方向に変換する。
\displaystyle \frac{1}{\sqrt 2}\frac{4}{\sqrt 2} b \sin (2 \theta -\frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =2b \sin (2 \theta -\frac{1}{4} \pi)
実際の慣性力の値は、以下のとおりである。
\displaystyle M \omega^2 S b (\frac{1}{2 \lambda}+\frac{1}{64 \lambda^3}+\frac{15}{4096 \lambda^5}) \sin (2 \theta -\frac{1}{4} \pi)
M:往復質量/気筒 S:ストローク ω:角速度 πn/30
n:エンジン回転数 rpm

左右バンクを合成(水平方向)

\displaystyle 2 b \cos 2 \theta+2b \cos(2 \theta-\frac{\pi}{2})
\displaystyle =4 b \cos (2 \theta -\frac{1}{4} \pi) \cos (\frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =\frac{4}{\sqrt 2} b \cos (2 \theta -\frac{1}{4} \pi)
上死点下死点方向を水平方向に変換する。
\displaystyle \frac{1}{\sqrt 2} \frac{4}{\sqrt 2} b \cos (2 \theta -\frac{1}{4} \pi)
\displaystyle =2b \cos (2 \theta -\frac{1}{4} \pi)
実際の慣性力の値は、以下のとおりである。
\displaystyle M \omega^2 S b (\frac{1}{2 \lambda}+\frac{1}{64 \lambda^3}+\frac{15}{4096 \lambda^5}) \cos (2 \theta -\frac{1}{4} \pi)
M:往復質量/気筒 S:ストローク ω:角速度 πn/30
n:エンジン回転数 rpm