直列5気筒エンジンの慣性力・偶力

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概要

本ページはHTML5でSVGを使用しています。閲覧には、対応したブラウザを使用してください。
JavaScriptでエンジンの各図を動かしていますので、JavaScriptが動作するようにしてください。
以下の直列5気筒4ストロークエンジンについて慣性力及び慣性偶力を解析する。
慣性力・慣性偶力についてはエンジンの慣性力と慣性偶力の概論を参照されたい。
シリンダは前から1,2,3,4,5の順番である。
前から見るとエンジンは右回転である。(HONDAなど時期によっては回転方向が逆のエンジンがある)
点火順序は 1-2-4-5-3 とする。
点火間隔は720度/5=144度である。
クランクピンの配置は、下図のとおりである。
1 2 4 5 3 SVGの代替画像
角度を入力して指定角度をクリックすると横断図及び右側面図が変化します。
自動回転をクリックするとエンジンが回転します。回転を止めるにはSTOPをクリックします。
右側面図は、1次慣性偶力によるエンジンのすりこ木運動をエミュレートしています。
角度θ=

※θはクランクシャフトを中心とし鉛直方向とクランクピンに挟まれた右回りの角度である。

各シリンダー横断図・右側面図

SVGの代替画像

特徴

かっては、HONDAも製造していたが、今ではアウディやボルボぐらいである。
慣性力は1次・2次ともバランスするが、偶力が発生するためHONDAではクランクシャフトと逆回転で回転する1次偶力バランスシャフトを用いるエンジン(G20A)もあった。

各気筒の行程

下図は青が吸気バルブが開いている期間、赤が排気バルブが開いている期間を示している。グラフの左側の数字はシリンダ番号を示している。
SVGの代替画像

1次慣性力

エンジンが1回転に1回発生する成分で、cos \theta に係数を乗じたものである。
各気筒を合成した慣性力は下式となる。
\displaystyle \cos \theta +\cos (\theta + \frac{4}{5} \pi ) + \cos (\theta + \frac{8}{5} \pi ) + \cos (\theta + \frac{12}{5} \pi ) + \cos (\theta + \frac{16}{5} \pi )
以下の和積の公式を使用して解析する。
\displaystyle \cos a+\cos b=2 \cos (\frac{a+b}{2}) \cos (\frac{a-b}{2})
2項と5項を合成
\displaystyle \cos (\theta + \frac{4}{5} \pi ) + \cos (\theta + \frac{16}{5} \pi )=2 \cos \frac{ 2 \theta + 4 \pi}{2} \cos \frac{ \frac{-12}{5} \pi }{2}
\displaystyle =2 \cos ( \theta + 2 \pi) \cos ( - \frac{6}{5} \pi )
3項と4項を合成
\displaystyle \cos (\theta + \frac{8}{5} \pi ) + \cos (\theta + \frac{12}{5} \pi )=2 \cos \frac{ 2 \theta + 4 \pi}{2} \cos \frac{ \frac{-4}{5} \pi }{2}
\displaystyle =2 \cos ( \theta + 2 \pi) \cos ( - \frac{2}{5} \pi )
2,5,3,4項を合成
\displaystyle =2 \cos ( \theta + 2 \pi) \cos ( - \frac{6}{5} \pi )+2 \cos ( \theta + 2 \pi) \cos ( - \frac{2}{5} \pi )
\displaystyle =2 \cos \theta ( \cos ( - \frac{6}{5} \pi) + \cos( - \frac{2}{5} \pi ))
=- \cos ( \theta )
1,2,5,3,4項を合成
\cos \theta - \cos \theta =0
以上の結果より1次慣性力はキャンセルさせる。

2次慣性力

エンジンが1回転に2回発生する成分で、cos 2\theta に係数を乗じたものである。
各気筒を合成した慣性力は下式となる。
\displaystyle \cos 2 \theta +\cos 2(\theta + \frac{4}{5} \pi ) + \cos 2(\theta + \frac{8}{5} \pi ) + \cos 2(\theta + \frac{12}{5} \pi ) + \cos 2(\theta + \frac{16}{5} \pi )
2項と5項を合成
\displaystyle \cos 2(\theta + \frac{4}{5} \pi ) + \cos 2(\theta + \frac{16}{5} \pi )=2 \cos \frac{ 4 \theta + 8 \pi}{2} \cos \frac{ \frac{-24}{5} \pi }{2}
\displaystyle =2 \cos ( 2 \theta + 4 \pi) \cos ( - \frac{12}{5} \pi )
3項と-4項を合成
\displaystyle \cos 2(\theta + \frac{8}{5} \pi ) + \cos 2(\theta + \frac{12}{5} \pi )=2 \cos \frac{ 4 \theta + 8 \pi}{2} \cos \frac{ \frac{-8}{5} \pi }{2}
\displaystyle =2 \cos ( 2 \theta + 4 \pi) \cos ( - \frac{4}{5} \pi )
2,5,3,4項を合成
\displaystyle =2 \cos ( 2 \theta + 4 \pi) \cos ( - \frac{12}{5} \pi )+2 \cos ( 2 \theta + 4 \pi) \cos ( - \frac{4}{5} \pi )
\displaystyle =2 \cos ( 2 \theta ) ( \cos ( - \frac{12}{5} \pi) + \cos( - \frac{4}{5} \pi ))
=- \cos 2 \theta
1,2,5,3,4項を合成
\cos 2 \theta - \cos 2 \theta =0
以上の結果より2次慣性力はキャンセルさせる。

4次慣性力

エンジンが1回転に4回発生する成分で、cos 4\theta に係数を乗じたものである。
各気筒を合成した慣性力は下式となる。
\displaystyle \cos 4 \theta +\cos 4(\theta + \frac{4}{5} \pi ) + \cos 4(\theta + \frac{8}{5} \pi ) + \cos 4(\theta + \frac{12}{5} \pi ) + \cos 4(\theta + \frac{16}{5} \pi )
2項と5項を合成
\displaystyle \cos 4(\theta + \frac{4}{5} \pi ) + \cos 4(\theta + \frac{16}{5} \pi )=2 \cos \frac{ 8 \theta + 16 \pi}{2} \cos \frac{ \frac{-48}{5} \pi }{2}
\displaystyle =2 \cos ( 4 \theta + 8 \pi) \cos ( - \frac{24}{5} \pi )
3項と4項を合成
\displaystyle \cos 4(\theta + \frac{8}{5} \pi ) + \cos 4(\theta + \frac{12}{5} \pi )=2 \cos \frac{ 8 \theta + 16 \pi}{2} \cos \frac{ \frac{-16}{5} \pi }{2}
\displaystyle =2 \cos ( 4 \theta + 8 \pi) \cos ( - \frac{8}{5} \pi )
2,5,3,4項を合成
\displaystyle =2 \cos ( 4 \theta + 8 \pi) \cos ( - \frac{24}{5} \pi )+2 \cos ( 4 \theta + 8 \pi) \cos ( - \frac{8}{5} \pi )
\displaystyle =2 \cos ( 4 \theta ) ( \cos ( - \frac{24}{5} \pi) + \cos( - \frac{8}{5} \pi ))
- \cos 4 \theta
1,2,5,3,4項を合成
=\cos 4 \theta - \cos 4 \theta =0
以上の結果より4次慣性力はキャンセルさせる。

6次慣性力

エンジンが1回転に6回発生する成分で、cos 6\theta に係数を乗じたものである。
各気筒を合成した慣性力は下式となる。
\displaystyle \cos 6 \theta +\cos 6(\theta + \frac{4}{5} \pi ) + \cos 6(\theta + \frac{8}{5} \pi ) + \cos 6(\theta + \frac{12}{5} \pi ) + \cos 6(\theta + \frac{16}{5} \pi )
2項と5項を合成
\displaystyle \cos 6(\theta + \frac{4}{5} \pi ) + \cos 6(\theta + \frac{16}{5} \pi )=2 \cos \frac{ 12 \theta + 24 \pi}{2} \cos \frac{ \frac{-72}{5} \pi }{2}
\displaystyle =2 \cos ( 6 \theta + 12 \pi) \cos ( - \frac{36}{5} \pi )
3項と4項を合成
\displaystyle \cos 6(\theta + \frac{8}{5} \pi ) + \cos 6(\theta + \frac{12}{5} \pi )=2 \cos \frac{ 12 \theta + 24 \pi}{2} \cos \frac{ \frac{-24}{5} \pi }{2}
\displaystyle =2 \cos ( 6 \theta + 12 \pi) \cos ( - \frac{12}{5} \pi )
2,5,3,4項を合成
\displaystyle =2 \cos ( 6 \theta + 12 \pi) \cos ( - \frac{36}{5} \pi )+2 \cos ( 6 \theta + 12 \pi) \cos ( - \frac{12}{5} \pi )
\displaystyle =2 \cos ( 6 \theta ) ( \cos ( - \frac{36}{5} \pi) + \cos( - \frac{12}{5} \pi ))
- \cos 6 \theta
1,2,5,3,4項を合成
\cos 6 \theta - \cos 6 \theta =0
以上の結果より6次慣性力はキャンセルさせる。

1次慣性偶力

上下方向

慣性偶力とは右側面図に示すようにシリンダを重心に対して回転させようとするモーメントである。
直列5気筒エンジンはエンジンの前後方向が重心に対して対称に力が働かないため、エンジンが前後に動こうとする。 1,2気筒目が上に動く方向を+とすると重心に対して左回りが+となる、4,5気筒目は1気筒目と重心に対して逆方向なので符号を反対にする。 3気筒目はエンジンの中心であり、モーメントとして機能しないので無視する。
モーメントは力×距離なのでボアピッチをaとすると
各気筒のモーメントを合成すると下式となる。
\displaystyle 2a \cos \theta + a \cos (\theta - \frac{4}{5} \pi) - a \cos (\theta -\frac{8}{5} \pi) -2a\cos (\theta -\frac{2}{5} \pi)
1,5気筒目
\displaystyle =2a (\cos \theta -\cos (\theta -\frac{2}{5} \pi))
以下の和積の公式を使用して、上式を変形する。
\displaystyle \cos a-\cos b=-2 \sin (\frac{a+b}{2}) \sin(\frac{a-b}{2})
\displaystyle =-4a \sin \frac{2 \theta -\frac{2}{5} \pi}{2} \sin \frac{ \frac{2}{5} \pi }{2}
\displaystyle =-4a \sin ( \theta -\frac{1}{5} \pi ) \sin \frac{1}{5} \pi
\displaystyle =-2.351141 a \sin ( \theta -\frac{1}{5} \pi )
2,4気筒目
\displaystyle a( \cos (\theta - \frac{4}{5} \pi) - \cos (\theta -\frac{8}{5} \pi)
\displaystyle =-2a \sin \frac{2 \theta - \frac{12}{5} \pi }{2} \sin \frac{\frac{4}{5}\pi}{2}
\displaystyle =-2a \sin ( \theta - \frac{6}{5} \pi ) \sin \frac{2}{5}\pi
\displaystyle =-1.902113a \sin ( \theta - \frac{6}{5} \pi )
1,5,2,4気筒目
\displaystyle -2.351141 a \sin ( \theta -\frac{1}{5} \pi ) -1.902113a \sin ( \theta - \frac{6}{5} \pi )
\displaystyle =- \sin ( \theta - \pi ) = \sin \thetaなので
\displaystyle =-2.351141 a \sin ( \theta -\frac{1}{5} \pi ) +1.902113a \sin ( \theta - \frac{1}{5} \pi )
\displaystyle =-0.44903 a \sin ( \theta -\frac{1}{5} \pi )
上記の式よりエンジンの回転に合わせてエンジン前後が上がり下がりすることがわかる。
実際の慣性偶力の値は、以下のとおりである。
\displaystyle -M \omega^2 \frac{S}{2} 0.44903 a \sin ( \theta -\frac{1}{5} \pi )
M:往復質量/気筒 S:ストローク
ω:角速度 πn/30
n:エンジン回転数 rpm

2次慣性偶力

直列5気筒エンジンはエンジンの前後方向が重心に対して対称に力が働かないため、エンジンが前後に動こうとする。 1,2気筒目が上に動く方向を+とすると重心に対して左回りが+となる、4,5気筒目は1気筒目と重心に対して逆方向なので符号を反対にする。 3気筒目はエンジンの中心であり、モーメントとして機能しないので無視する。
モーメントは力×距離なのでボアピッチをaとすると
各気筒のモーメントを合成すると下式となる。
\displaystyle 2a \cos 2 \theta + a \cos 2( \theta - \frac{4}{5} \pi) - a \cos 2( \theta -\frac{8}{5} \pi) -2a\cos 2( \theta -\frac{2}{5} \pi)
1,5気筒目
\displaystyle =2a (\cos 2 \theta -\cos 2( \theta -\frac{2}{5} \pi))
\displaystyle =-4a \sin \frac{4 \theta -\frac{4}{5} \pi}{2} \sin \frac{ \frac{4}{5} \pi }{2}
\displaystyle =-4a \sin ( 2 \theta -\frac{2}{5} \pi ) \sin \frac{2}{5} \pi
\displaystyle =-3.804226 a \sin ( 2 \theta -\frac{2}{5} \pi )
2,4気筒目
\displaystyle a( \cos 2( \theta - \frac{4}{5} \pi) - \cos 2( \theta -\frac{8}{5} \pi)
\displaystyle =-2a \sin \frac{4 \theta - \frac{24}{5} \pi }{2} \sin \frac{\frac{8}{5}\pi}{2}
\displaystyle =-2a \sin ( 2 \theta - \frac{12}{5} \pi ) \sin \frac{4}{5}\pi
\displaystyle =-1.175571 a \sin ( 2 \theta - \frac{12}{5} \pi )
1,5,2,4気筒目
\displaystyle -3.804226 a \sin ( 2 \theta -\frac{2}{5} \pi ) -1.902113a \sin ( 2 \theta - \frac{12}{5} \pi )
\displaystyle -4.979797 a \sin ( 2 \theta -\frac{2}{5} \pi )
上記の式よりエンジンの回転に合わせてエンジン前後が2倍の周期で上がり下がりすることがわかる。
実際の慣性偶力の値は、以下のとおりである。
\displaystyle -M \omega^2 \frac{S}{2} 4.979797 a (\frac{1}{2 \lambda}+\frac{1}{64 \lambda^3}+\frac{15}{4096 \lambda^5})\sin ( 2 \theta -\frac{2}{5} \pi )
M:往復質量/気筒 S:ストローク ω:角速度 πn/30
n:エンジン回転数 rpm