鉄道ブレーキ

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ブレーキに必要な要件

鉄道に関する技術上の基準を定める省令の及び解釈基準により、ブレーキ装置に必要な要件が決められている。主なものを以下に示す。
  • 走行中の車両を減速し停止させ、かつ停止状態が維持できること。
  • 車両の全車輪に対して制動力を作用させる機能を有すること。
  • 組成した車両に乗務員室からの操作により連動して作用すること。
  • 制動力を連続して作用させることができること。
  • 二両以上の車両で組成する列車には、組成した全ての車両に連動して作用し、かつ、組成した車両が分離したときに自動的に作用するブレーキを使用しなければならない。
  • 列車の制動力は、線路のこう配及び運転速度に応じ、十分な能力を有するものでなければならない。
  • 新幹線以外の鉄道における非常制動による列車の制動距離は、600m以下を標準とすること。
なお、上記の要件は、平成十三年国土交通省令第百五十一号によるものであり、以下に説明するそれ以前のブレーキ搭載時に適用されない要件もあるので注意。

ブレーキシステム

直通空気ブレーキ

直通空気ブレーキは、制動する場合に運転台のブレーキ弁より圧力空気を直接ブレーキシリンダーに送って制動する方法である。
運転台にブレーキ弁があり、空気溜めからの配管が運転台に引き込まれ、ブレーキ弁を開くと圧力空気がブレーキシリンダーに送られ、ブレーキが作動する。
ブレーキの解除は、ブレーキ弁よりブレーキ管の圧力空気を大気に放出することでブレーキシリンダーのバネによりブレーキピストンが元の位置に戻る。
直接送るため、編成が長いと空気の伝達時間がかかり、均等なブレーキ力がえられないため、 1両で運転する場合に使用する。 また、連結した場合、ブレーキホースが外れるとブレーキが効かなくなる。

SM

2024年現在、1両で運転する路面電車等では、まだ使用されている。
SM

SME/SCE/STE

車両を連結して運転する場合、運転台より連結されている車両のブレーキも同時に作動させ、車両が何らかの事故で分離した場合、自動でブレーキがかかる必要がある。(遅れ込め制御は別途)ブレーキに必要な空気は、車両ごとに設けられた補助空気溜に自車の空気圧縮機か緩め時にあらかじめ込めておく。
車両分離時にブレーキホースが外れた場合、圧力空気が大気へ解放され圧力が低下することを利用し、通常時は、圧力空気で加圧し、制動時に圧力空気を大気に解放してブレーキが作動するように、通常のブレーキ管に非常管と非常弁を追加した非常弁付直通ブレーキが開発された。
その一つである、WABCOによって開発されたSMEは2~3両編成に用いる。
SMEは、Straight air brake / Motor car / Emergency valveの略である。 電動車はSME、付随車は、STEと称す。
詳細はSMEで記載している。
現在でもローカル線の気動車などでみられる。

自動直通空気ブレーキ

非常ブレーキは、列車分離等に備えて、あらかじめ補助空気溜に圧力空気を送っておき、制動時に制動管を減圧をすることによって非常ブレーキが作用する。
直通空気ブレーキは、加圧によりブレーキが作動するが、自動空気ブレーキは減圧により作動する。
ここでいう自動とは、自動車の衝突回避ブレーキ等ではなく、列車分離等または、空気管の破損等により圧力空気が漏れた場合、自動に停止するという意味である。ブレーキシリンダーは加圧された空気により作動するため補助空気溜めが必要となる。
ブレーキ弁からの指令圧に対して制御弁を介して、補助空気溜の空気を制御して、制動する。
ここでは、制御弁の初期に作られた、三動弁を説明する。その後、制御弁は非常に巧妙で、複雑な構造となり、重量が重くなり、詰まり等により弁が固着するなどメンテナンスを要する様に発展した。現在では製造をしていない制御弁もある。
なお、制御弁で直接ブレーキシリンダーを制御せず、中継弁を使用して間接的に制御する場合もある。中継弁を使用することによりブレーキ指令に使用する空気量が減り、長い編成時の空気の込め緩めが迅速となりレスポンスがよくなる。
WABCO流の表記では、A(Automatic air brake ) M(Motor car) 制御弁名となる。
弁は、M弁、U弁、A弁、J弁等がある。動作が複雑な弁は制御弁という名称で呼ばれる場合もある。
三動弁

AMM

ウェスティングハウス・エア・ブレーキ社(Westinghouse Air Brake Company WABCO、現ワブテック社)の1907年(明治40年)に開発した。
WH社が 比較的短編成用(1~5両)でありの、非常ブレーキ、常用ブレーキ、直通ブレーキ、それぞれ重なり機能を有する。
運転台のブレーキ弁のハンドルで操作する。
ブレーキ弁はM-24型が用いられ、制御弁にはブレーキシステムの名称にもある、M型三動弁が用いられる。
基本は、車両間に制御管とブレーキ管を接続する。
名鉄では、3400系 俗称 いもむしに採用された。

AMJ

AMA

日本エアブレーキが設計し1928年(昭和3年)に国鉄で正式化されたA動作弁を使用している。
A動作弁は、三動弁に似た釣り合い構造と、非常ブレーキ用の非常弁、急動部、高圧弁が一体となっている。
非常時は、補助空気溜と付加空気溜の空気もブレーキシリンダーに供給し、空気圧を高める。また、ブレーキ管の減圧を促進する。
長編成化のため電磁ブレーキを付加したAMAE、中継弁を使用したAMAR、発電ブレーキと連動させたAMADなどがある。
ブレーキ弁は、M-23型が用いられ、ハンドル位置は、非常ブレーキ、常用ブレーキ、重なり、抜き取り、保ち、込めの6個である。
名鉄では、
吊掛駆動車の3300系(2代目 1987年(昭和62))
3800系(1948年(昭和23年))、3850系(OR 1951年(昭和26年)),3900系(OR 1952年(昭和27年))、
6750系(OR 1986年(昭和61年) 瀬戸線)、7300系(1971年(昭和46年) 吊り掛けパノラマ)
に用いられた。
なお、名鉄での略称は以下の通りである。
OR:オールドロマンスカーの略、SR:スーパーロマンスカー、NSR:ニュースーパーロマンスカー

AMU

AVR(Automatic Valve Release)非常直通自動空気ブレーキ(制御管式)

M弁対抗として、ゼネラル・エレクトリック (GE) 社の原設計に基いて芝浦製作所(現・東芝)が製造したJ三動弁を用いるAVR制御管式自動空気ブレーキである。
名鉄850系 俗称 なまずで採用されている。

電磁弁併用

 自動空気ブレーキに、車両単位に電磁弁により込めと弛めをサポートしより高速にブレーキを作動させるシステムである。
電磁弁は電磁直通制御器によりブレーキ指令圧(CP:ブレーキ弁の圧力)を検出し、込め・弛めを電気により各車両へ指令する方式である。

HSC(High Speed Control)

WABCOにより開発された、セルフラップの電磁直通ブレーキを主体に自動常用ブレーキの機能を併設するブレーキシステムである。日本には1953年頃から導入され、私鉄車両に広く導入された。
名鉄では、5000系(初代 名鉄初の高性能車 1955年(昭和30年))からVVVF車が登場するまで新造時から用いられ、現在も使用している車両が多数ある。
なお、非常ブレーキとして、自動空気ブレーキを併用している。
HSC

HSC-D(Dynamic)

HSCに主電動機による発電ブレーキ(Dynamic Brake)を併用している。
発電した電流は、抵抗器で消費させるため回生はしていない。
締切電磁弁:ロックアウトバルブにより、空気制動と電制を切り替える。
名鉄では、電制になるとLO(ロックアウト)ランプが点灯する。
主電動機の電流値が一定以上の値になると締切電磁弁により電制に切り替える。
比較的低い速度まで電制が可能であるが、床が抵抗の発熱で、非常に熱くなる。
また、架線電圧に依存しないため、安定したブレーキが可能である。
名鉄6000系は、HSC-Dであり発電ブレーキ中は、減速中に電流計がぴくぴく動いて抵抗を切り替えながら、約10km/hまで発電しているのがわかる。
約10km/h以下で空気制動に戻る。
ブレーキハンドルの位置により、限流値を変えて、抵抗を切り替えている。
HSC-Rの名鉄6500系では、バックアップとして発電ブレーキも併用している。

HSC-R(Regenerative)

HSCと回生ブレーキ併用である。
回生とは、自車で制動時に発生した電気を架線を通じて、他の編成で力行に使用することにより、制動時のエネルギーを回収する方式である。
回生として、界磁チョッパ制御、界磁添加励磁制御を用いる。バックアップとして発電ブレーキを併用する場合もある。
なお、他の車両が走行していない閑散とした路線や架線電圧が高いと回生できなくなる。したがって、回生機能を持ちながら、路線や、運用によって使用しない車両もある。
名鉄の場合、回生中は、主電動機の電流計がマイナス側に振れる。

電気指令式ブレーキ

MBSA

ECB(Electric Commanding Brake)の一種
ブレーキの強さの指示を空気圧ではなく、電線を経由して電気により行う。
運転台に、ブレーキ用の空気を引き込む必要がない。
名鉄のVVVF車に使用されているMBSAでは、ワンハンドルのマスコンで、手前に引くとブレーキで7段階の制動が得られる。
ブレーキ力は、3本の信号線によるデジタル値により各車に指令される。
T車の制動をT車の空気ブレーキに代わりM車の回生により負担させる、遅れ込み制御も可能である。

基礎ブレーキの種類

両抱き式踏面ブレーキ