山本ワールド
VVVF
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最近の電車の主電動機は、交流モータを使用しています。
交流モーターには、主に誘導電動機と同期電動機があります。
これらの電動機は、基本的に供給周波数により回転数が決まるため可変速運転するためには大電力の交流の周波数を任意に変化させる技術がなかったため、長らく抵抗の切り替えにより容易に制御が可能な直流電動機が用いられてきました。
半導体技術が進み、高電圧・大電流のスイッチが可能なデバイスが開発されたため、構造が簡単な誘導電動機が用いられるようになりました。
任意の電圧と任意の周波数を出力できることから和製英語でVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)と呼ばれます。
補助電源等で用いられる一定電圧で一定周波数の場合は、(CVCF)と呼ばれます。
これらは、直流電気をスイッチにより交流に変換しています。
出力が大きい、交流電動機は三相交流を用います。
三相交流は、3つの交流を位相を120度ずつずらすことにより、合成値が0となるため、3本の線で大きな電力を送ることができます。
また、自然に回転磁場がえられるため、電動機に適しており送電や工場など広く用いられています。
なお、電車の補助電源装置(例えばDC1500Vから三相AC400Vを作成)は、CVCFを用いています。
原理
3相交流の場合、6個のスイッチング素子により直流を三相交流に変換します。
スイッチングはOn/Offの時間の比率により出力電圧の平均値を調整するPWM(パルス幅変調 Pulse Width Modulation)により電圧を自由に制御でき、抵抗制御のように常時熱として放出しないため損失が少なく省エネとなります。
スイッチング素子は、理想的にはOn抵抗が0Ωですが、多少の抵抗分が残るため、電圧降下を起こし、素子で熱として消費されます。
また、スイッチングが理想的に瞬時にOn/Offできず、時間を経てOn/offが切り替わるため、その間は、0Ωから無限大に変わるアナログ的な動作(抵抗制御中と同じ)となるためスイッチング損失が発生します。スイッチングが遅い素子の場合、スイッチング速度をあまり速くするとスイッチング損失が増え、off時間が長くなり、最大出力電圧の実効値が減少します。
スイッチング素子が発達し高速にスイッチングできるようになると、より滑らかに制御できるため、騒音の周波数が高くなり目立たなくなります。
直流電源電圧(架線電圧)をVdの場合、各相の電圧は、Vd/2を中点として正弦波を出力します。
各相の電圧
各相の電圧の和
ピーク値
実効値
相間電圧は、2つの相の差分となるので、電圧は√3倍になります。
相間の位相は相電圧に対して以下の通り30度進みます。 U-V
V-W
W-U
以下の図は、GTOを使用したVVVFインバータの動作説明である。アニメーションボタンをクリックするとスイッチングにより三相交流が作成される様子が表示される。
各相の電圧の和
ピーク値
実効値
相間電圧は、2つの相の差分となるので、電圧は√3倍になります。
相間の位相は相電圧に対して以下の通り30度進みます。 U-V
V-W
W-U
以下の図は、GTOを使用したVVVFインバータの動作説明である。アニメーションボタンをクリックするとスイッチングにより三相交流が作成される様子が表示される。
誘導電動機の制御
誘導電動機は、電動機の回転数より速い回転磁場を与えると、トルクを発生します。これは回転磁界より回転子が遅いと回転子の導体を磁界が移動することにより起電力が発生し、その電流により力が発生し、回転子が回転します。逆に回転子より遅い回転磁界を与えると発電を行います。電流の発生はフレミングの右手の法則、力の発生はフレミングの左手の法則で表すことができます。回転磁界の回転数を同期速度といい、周波数と電動機の極数で決定されます。なお、最近採用されている同期電動機は同期速度で回転します。 誘導電動機の同期速度 回転子回転数の比率をすべりとよびます。すべりがないと回転子の導体に起電力が発生しないためトルクがでません。一般的にすべりは数%程度です。一定の加速度で加速させるときは、一定の滑り周波数で制御します。このときは、v/fを一定にしてそれぞれを上昇させていきます。定出力領域では vが電源電圧になるとvを一定としすべり周波数を上昇させて電流を増やし定出力とします。すべり周波数が最大となると電流が減少する、特性領域となります。電車では4極が普通ですが、6極も使用されます。同じ回転数でも極数が増えると高い周波数が必要となります。 Ns:同期速度(rpm) f:周波数(Hz) p:極数 s:すべり N:電動機回転数(rpm) fs:すべり周波数スイッチング素子
電車で主に用いられた素子は年代順に以下の通りです。
以下の2種類があります。
GTO(Gate Turn Off)
サイリスタは、下図の様にNPNトランジスタとPNPトランジスタを組み合わせた構造です。ゲートにプラスの電圧を加えるとNPNトランジスタのコレクタエミッタ間がONとなりPNPトランジスタがONとなります。PNPトランジスタによりNPNトランジスタのベースに供給されるため一度ゲートで ONにするとアノードの電圧が切れない限りOffにできない素子です。交流の場合、周期的に電圧が 0になるため自動的にoffとなります。逆に言えば、周期的にトリガを変える必要があるということです。直流では使いづらい素子です。 下図はGTOです。実はサイリスタのゲートに負の電圧を加えると素子の一部分はoffとなります。ただし、offとならない残りの部分に電流が集中して最悪破壊する。 GTOはカソードを細かく分割しその周りをゲートで囲みゲートを逆バイアスにしたときにキャリアを抜きやすいように改良している。自己消弧能力をもつ。 下図の上面図の緑の部分がカソードである。素子の直径はDVDメディア程度である。ターンオフ時は負荷電流の数3~5分の1の大電流が必要である。ただしターンオフ時のゲートの逆バイアス時間は40~50μAと一瞬であるため電力としてはたいした大きさではない。ターンオンもベース電流が必要である。制御回路が複雑となる。速度の速いスイッチング時によりGTOを破壊しないように、直列にリアクトルを接続している。速度の速いターンオフ時に回路のインダクタンス成分によりスパイク電圧が発生し、GTOを破損しないようにダイオードを並列に接続している。このダイオードにより逆方向電圧が抑制される。またリアクトルに蓄えられたエネルギーを放出するために抵抗とコンデンサによるスナバ回路が並列に接続されている。スイッチング周波数は最大で500Hz程度である。高耐圧かつ高電流向けであり、1個の制御器で8個の誘導モータを駆動する、1C8Mにも使用可能である。IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲート型バイポーラートランジスタ)
下図の等価回路のとおり入力がNチャネルMOSFETで出力がPNPトランジスタです。入力電力が少なく、しかもスイッチング速度がGTOの約6倍速いのが特徴です。 スイッチング周波数は最大で1.5kHz程度です。 電圧駆動ができ非常に少ない電流でスイッチング素子を制御できる。 制御方法も進歩し、GTOの時代に比べて小型化もされていることから、1制御器当たりの電動機数を減らし、2基の制御器とし1基故障時にも走行可能としたり、補助電源装置故障時にCVCF動作として、代わりの補助電源として使えるなどの機能が追加されている。 なお、永久磁石同期電動機では電動機1基に1基ずつの制御装置が必要となる。Sic
Sicは半導体の構造ではなく、材料を指しています。したがってSiを材料として構造を示すGTO/IGBTとはカテゴリーが違うが、実際は同じように扱われている。 単価ケイ素(Silicon carbide)は炭素Cとケイ素SIが1対1で結合した共有結合性の化合物であり、 Siより許容温度が高く高温度でも動作可能である。 Sicは高耐圧であるためSiでは無理であった高耐圧のショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky barruer diode)やMOSFETを作ることができます。従来のファーストリカバリーダイオードFRDに比べてリカバリー損失を大幅に少なくすることができます。 リカバリ損失は順方向から逆方向に切り替わる際、大きな過度電流が流れることによるものです。 Siでは無理であった高耐圧のMOSFETが作れ、非同期PWM領域を広げたり高い速度まで多パルス同期モードが使え、高速かつ低ひずみ・低損失のスイッチングが可能となります。 参考までにACアダプターで最近採用されている、GaN(窒化ガリウム)の物性も併せて表にしました。Si | SiC(4H-Sic) | GaN | |
バンドキャップev | 1.12 | 3.26 | 3.39 |
絶縁破壊電界MV/cm | 0.3 | 2.8 | 3.3 |
熱伝導率W/cm・K | 1.5 | 4.9 | 2.0 |
飽和速度106(cm/s) | 10 | 20 | 207 |
フルSiC
スイッチング素子と逆導通ダイオードSBDの両方がSiCで作られている。 スイッチング素子はSicが高耐圧であることから、MOS-FETがもちいられ、ハイブリットSicより更に高性能であるが、高価でもある。ハイブリッドSiC
逆導通ダイオードだけSiCで作り、スイッチング素子は従来のSi-IGBT ダイオードをSBDにできるので導通損失が少なくスイッチング損失が少なくキャリア周波数を高くでき全域で他パルスPWMが使え電動機の高調波損失が減る。高周波数でも歪みが少ない電流が得られ発熱や騒音が少なくなるPWM
PWM(Pulse Width Modulation)、パルス幅を変化させて変調する方式である。
オーディオでデジタルアンプと称するD級アンプも同原理である。
アナログ領域を使用するA級、AB級、B級などと違い、デジタル的な動作であり非常に効率が良い。
PWMの作成方法としてよく説明にもちいられるのが、三角波変調方式である。
三角波は、0V~電源電圧までで搬送波(キャリア)とし、目標とする信号(例えば正弦波)と比較し、信号と三角波の立下りと交差するときに電源電圧を出力し、三角波の立上がりと交差するときに0Vを出力すると、正弦波の電圧と比例するパルス幅が得られます。
赤を信号、緑をキャリアとすると、灰色が変調後の波形です。
80%
マルチレベル(多段)
スイッチング耐圧が不足するときや、より歪みの少ない正弦波を得たい場合は、スイッチング素子を直列に接続します。
それぞれを別々に制御することにより、 通常の2レベルの電圧ではなく、多レベルの電圧を得ることができます。,
9P 2レベル
9P 3レベル
3 レベルの場合、正弦波の正負それぞれにキャリアである三角波を用意し1層4個の素子を制御します。
3レベル
電車では、1つの直流電圧をコンデンサで分圧し2分の1の電圧を作成し、通常6個で三相交流を作成するのに対し、1アームを2個の素子に分割し倍の12個の素子を使用することにより、3レベルの電圧を得ることができます。0,750,1500VVd | Vd/2 | 0 | |
G1 | On | Off | Off |
G2 | On | On | Off |
G3 | Off | On | On |
G4 | Off | Off | On |
多段
大容量の三相誘導電動機(3200kW 6600V)をVVVFで制御するために、1層を6個の単相出力のIGBT-VVVFを直列に接続した例があります。三相ですので1相を6個のVVVFを直列し、三相で計18個のVVVFを用いた例があります。 商用電源を使用するため、1層の各段にそれぞれの変圧器の巻線AC690Vを用意し位相10度ずつずらすことにより、計18組の三相交流を整流し、脈流を打ち消しています。各々のVVVFはトランスによりGNDが絶縁されているため、直列に接続することができます。 AC690V 6600V 10度動作例
名鉄3500系の機器更新前をモデルとし一部説明のため簡素化しています。
車輪径 0.86m
歯車比 5.65(97:16)
設計最高速度 130km/h
主電動機
東洋電機 かご形三相誘導電動機 TDK-6380-A 主電動機出力 170kW × 4基/1電動車 定格 1100V 114A 1960rpm(56.2km/h) 4極
東洋電機 RG645-A-M 2レベル(GTOサイリスタ素子) 4,500 V/4,000A 1C8M
最大キャリア周波数 345Hz
1km走行時の電動機総回転数、1000/(0.86*π)*5.65=2091.221927回転
1時間に1km走行するとき 1分当たり 2091.221927回転/60=34.85369878rpm
4極電動機の場合、34.85369878*4/2/60=1.1618Hz/(km/h)となる。
電流は、
0~80km/ 0~1300A/8基=162.5A/基 定トルク領域(V/F=一定制御)
80~95km/h 一定電流 1300A/8基=162.5A/基 定電力領域(電圧 電流一定 周波数のみ変化)
95~120km/h 1040A/8基=130A/基(120km/h) 特性領域(電流は速度の反比例 トルクは速度の2乗に反比例)
すべりを無視する
VVVF制御例
凡例
青:キャリア周波数 赤:出力電圧(線間電圧実効値) 緑:電流 赤破線:9~3P時の出力周波数