UpDate

初版 2013/10/27
文章の訂正 2013/10/28

概要

SVGの代替画像
ロジックICによる水晶発振回路は通常コルピッツ発振回路の変形が用いられている。
電波時計のテスト用に74HCU04を用いた40kHz,60KHz発振器を作成する。
水晶発振回路で100KHz以下の製作例は、ネット上にあまりないため、回路定数について検討してみた。
発振回路の基本はLC発振回路を参照されたい。

水晶振動子の等価回路

等価回路

水晶振動子の等価回路は下図のとおりである。
SVGの代替画像

リアクタンス特性

リアクタンスはfs以下が容量性、fs~frが誘導性、fr以上が容量性となる。通常は、fs~frの範囲を発振回路に用いる。
オーバートーン用の水晶は、上記の特性が、3倍の周波数など奇数倍でも見られる。
SVGの代替画像

インピーダンス特性

インピーダンスは下図のとおりである。
SVGの代替画像

Q

水晶のQはfs時のインピーダンスZ0に対して√2*Z0インピーダンスとなる周波数が2点有り、その周波数差をΔfとすると

で表せる。
SVGの代替画像

共振周波数等

直列共振周波数 
並列共振周波数 

容量比 
負荷時共振周波数
直列共振周波数

英語のデーターシートでの表記

C1:Motional Capacitance
Co:Shunt Capacitance
L1:Motional Inductance
R1:Motional Registance

共振周波数の計算

f=kHz
C1=pF
Co=pF
CL=pF


L1=H
直列共振周波数fs=kHz
並列共振周波数fa=kHz

周波数による水晶振動子特性の違い

今回使用する100kHz以下の水晶と12MHzの水晶を比較した。
インピーダンスが3桁程度等が異なるため、周辺回路の定数が大幅に異なる。
大まかに100kHz以下の場合、回路の抵抗値をかなり大きくしなければならない。
水晶振動子の周波数と特性例
32,768Hz 音叉型12MHz AT型
MERCURY T26 H49
C10.003pF
Co1.35pF7pF
CL6,12.5pF8,32pF
L15279H,5278H
R135KΩ25
Q50,000
DL1μW1mW

74HCU04の動作

74HCU04はアンバッファタイプのインバーターである。
SVGの代替画像
以下にTOSHIBA TC74HCU04のデーターシートへのリンクがある。
http://www.semicon.toshiba.co.jp/info/lookup.jsp&pid=TC74HCU04AP&lang=en
内部回路はPch,Nchのコンプリ回路でドレインが出力に接続されている。一見するとオーディオ回路にありそうな回路である。
データーシートを見ると電源が4.5Vの場合、Lowと認識する最大電圧は0.9V、Hiと認識する最小電圧は3.6Vである。LowとHiの間の入力に対してはアナログ的動作となる。
オープンループゲインは20dB程度であり、通常はインバーターの入力と出力を1MΩ程度の抵抗を接続して入力電圧を電源電圧の半分にバイアスする。
この抵抗により、入力電圧が増えると出力電圧が減り入力へ戻る電圧も減る。入力電圧が減れば出力電圧が増え入力電圧が減る。この作用により入力電圧が電源電圧の半分程度に落ち着きうまくバイアスされる。
書籍によると(発振回路の設計と応用 P159 第14版 CQ出版)TC74HCU04の電圧利得特性を実測した結果が図示されています。)、 低域では20dB オープンループゲインがあり、オープンループゲインが1になるのが60MHz、おおまかにカットオフ周波数が6MHzで6dB/octで高域が下がる反転アンプとみなせる。
SVGの代替画像
アンバッファタイプと呼ばれる74HCU04の場合Pch,Nchのコンプリ回路が1段,バッファタイプと呼ばれる74HC04はPch,Nchのコンプリ回路を3段接続している。74HC04の方がゲインが高く小さい入力に対しても出力が大きくふれディジタル回路的に切れ味がよくなる。
これらのアナログ的な特性を生かして、ヘッドホンアンプやD級アンプ、FMワイヤレスアンプに使用している例がある。
gmは下記のP7 Fig.12によると電源5Vで約37mSである。
http://www.nxp.com/documents/data_sheet/74HCU04.pdf フィリップス
入力を電源電圧の半分に固定するとPchからNchに貫通電流が流れる。オーディオ的にいえばAB級回路となる。長時間この状態が維持されるとICが壊れる場合がある。出力インピーダンスは50Ω程度である。インピーダンスを下げたい場合や出力電流を増やしたい場、各インバーターを並列に接続する。同一IC内では直接並列に接続できるが、他のICと並列に接続する場合は、アンバランスが生じないように出力に直列抵抗をつなぐ。

発振回路の設計

水晶振動子の励振レベル

カタログより最大1μWである。



励振電流の計算例
DL=μW
R1=k
Co=pF
CL=pF


Re=k
Ixmax=μA

発振周波数と負荷容量

水晶の発振周波数はカタログで指定されている負荷容量のとき周波数偏差が0となるように製作されている。
水晶振動子の両端からみるとCgとCdが直列につながれているように見える。これに浮遊容量Csが並列に接続されているとみなすと負荷容量は下記の式で求められる。

発振余裕度

コルピッツ回路の負性抵抗値 Ri(LC発振回路参照)の値は下記の式で算定される。ただし、下記の式が成り立つのは、発振周波数においてCg、Cdのインピーダンスが十分小さく他の影響を受けない前提である。Rfと負荷容量により低域では負性インピーダンスが正となる。負性抵抗が正抵抗に変化する周波数をfcと置く。

gm=37mSとすると





負性抵抗の計算例
gm=mS
f=kHz
Cg=pF
Cd=pF
Rf=


Ri=
fc=kHz
今回は、実際に下図の回路を試作し、Rsupを0に設定し発振後、少しずつRsupを増やし発振が停止した時点のRsupを測定し負性抵抗値 Ri=-(Rsup+Re)を算定する。
SVGの代替画像
発振余裕度 | Ri |/Re が5以上あれば安定して発振を開始するとされている。発振してしまえば | Ri |=Reで良いので上記の負性抵抗値を測定する方法は、この原理を応用している。
発振の停止は分かりにくいので、RsupはReの10倍程度の値の多回転タイプの可変抵抗・オシロスコープ・ゲートタイムが短い周波数カウンター(0.1秒)があると良い。Rsupを増やすと振幅が小さくなりやがて発振が停止する。急に振幅が激減して停止するので調整が難しい。発振が停止する寸前に発振周波数が低下し始めるので周波数カウンタによる計測の方がわかりやすい。
いずれにしても発振停止は分かりにくいので測定を自動化しない限りは誤差をかなり含む。

負性抵抗と水晶振動子とのマッチング

負性抵抗の算出方法は、LC発振回路に記載のとおりである。
水晶の直列抵抗Reと負性抵抗Rの周波数特性を図化したのが下図である。
SVGの代替画像

基本波を発振させる

基本波を発振させるときは、3倍や5倍などの周波数で発振しないように、高域では負性抵抗が小さいほうが理想的です。したがって必要以上にgmを大きくすることは好ましくありません。低域の負性抵抗に余裕がある場合は、水晶と直列に抵抗を接続することにより基本周波数での発振余裕度を削る代わりに奇数時倍の周波数での発振余裕度も削り寄生発振を防ぐことができます。
fcは発振周波数より小さいほうが安定します。Rが低域で下がるポイントより低域で上昇するポイントで発振させるほうが素子のばらつきに対して安定です。上図の中央のグラフの特性が好ましくなります。ただし、基本周波数が非常に低い水晶の場合、水晶の直列抵抗が大きく必要な負性抵抗値が大きくなるため設計の余裕度がなくなります。上図の左のグラフの特性では3倍の周波数で寄生発振をする場合があります。

オーバートーン発振させる

一般的に使用されるATカット(温度特性が良い)の水晶は厚みが薄いほど高い周波数が発振できますが、あまり高くなると水晶が薄くなりすぎて強度不足となります。高い周波数を発振させるときは、オーバートーンを使用します。
オーバートーン発振させるには、発振周波数で発振余裕度が必要です。基本波では発振余裕度は不要です。上図の右のグラフの特性が好ましいです。

試作

使用する水晶の特性

秋月電子の店頭で購入した40kHzを使用する。
パッケージに型番の記載がなく、ホームページを閲覧しても特性は不明である。製造元で同サイズで近傍の周波数の水晶の特性をもとに試作する。
http://www.mercury-crystal.com/pdf/t382615_32768.pdf
周波数がMHz以下なので通常と水晶のATカットと異なり、音叉型と呼ばれるものである。先がフォークのようで先が2本になっている。よってATカットと回路定数が大幅に異なる。
32.768Hzのカタログより以下のパラメータを得る。 R1=35kΩ(max)、Q=50000(min)、Co=1.35pF(typ)、γ=450(type)、CL=6pF or 12.5pF
電源電圧は5V、東芝製の74HCU04を使用しRfを10M~30MΩ、Cg・Cdを10pFと15pF、Rfを470k~2.2MΩまで変化させて励振レベルと発振余裕度を測定した。なお、発振余裕度についてはRsupに500kΩの可変抵抗を用いたため、Rf=470kΩのときの発振余裕度はRsup=500kΩでも発振を維持している。実際は、500kΩ以上でも発振を維持するが、グラフではRsup=500kΩの時の発振余裕度で図示している。
下図に励振レベルと発振余裕度の測定結果を示す。凡例でhi gmと記載がある場合は、74HCU04のインバーターを2個パラレル接続し利得を稼いだ場合を示す。
0.00E+00 5.00E+05 1.00E+06 1.50E+06 2.00E+06 2.50E+06 0.00E+00 5.00E-07 1.00E-06 1.50E-06 2.00E-06 2.50E-06 3.00E-06 3.50E-06 Rdの値とドライブレベルの関係 Rf=10M DL 15pF+15pF Rf=20M DL 15pF+15pF Rf=30M DL 15pF+15pF Rf=30M DL 10pF+15pF Rf=20M DL 10pF+15pF Rf=20M DL 10pF+10pF Rf=20M DL 10pF+10pF hi gm Rd μW SVGの代替画像 0.00E+00 5.00E+05 1.00E+06 1.50E+06 2.00E+06 2.50E+06 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 7.00 8.00 9.00 10.00 11.00 Rdの値と発振余裕度の関係 Rf=10M 15pF+15pF Rf=20M 15pF+15pF Rf=30M 15pF+15pF Rf=30M 10pF+15pF Rf=20M 10pF+15pF Rf=20M 10pF+10pF Rf=20M 10pF+10pF hi gm Rd SVGの代替画像
Rfを大きくすると増幅度が上がるため負性抵抗値が増え発振余裕度が増える。
Rdを大きくするとドライブレベルも発振余裕度も下がる。
Cg・Cdを減らすと負荷が軽くなり励振レベルが下がる。
Cg・Cdを減らすことは、発振余裕度が上がり、ドライブレベルが下がるため調整が楽である。ただし水晶に対する負荷容量が変わるた余り小さくすると浮遊容量等の影響が支配的となり発振安定度に影響を与える。
負性抵抗値は上記のとおり負荷が軽くなるため、大きくなり発振余裕度が上がる。
励振レベルの最大値は1μWでありRfは1MΩ以上必要となる。ただし発振余裕度も下がる。
74HCU04を2個パラレルに接続しgmを2倍にした場合、発振余裕度が半分程度に下がっている。
gmを2倍にした場合、下記の式のとおり負性抵抗は単純に2倍になる。

ただし、低域で負性抵抗が通常の抵抗に変化するカットオフ周波数(fc)が存在するため 発振周波数 < fc の場合、単純でない。
各定数と大まかな傾向
項目
Rf発振余裕度小発振余裕度大
Rdドライブレベル大 発振余裕度大ドライブレベル小 発振余裕度小
Cg・Cdドライブレベル小 発振余裕度大ドライブレベル大 発振余裕度小

上記より、発振余裕度5以上及びドライブレベルを満足するためには、Rf=20MΩ、Rd=1MΩ~1.5MΩ、Cg・Cd=10pFを採用する。