山本ワールド
FMステレオ送信機製作計画
工事中
ステレオの原理
平衝変調器はキャリアの電圧が+のときL-Rを-の時は-(L-R)=-L+Rを出力します。これをL+Rと合成すると、L+R+L-R=2L、L+R-L+R=2Rが交互に出力されることになります。単に、キャリアの電圧が+の時にL信号を、-の時にR信号をスイッチによって切り替えることにより発生させることが出来ることがわかります。これがスイッチング方式といわれるものである。一般的にはスイッチング方式で変復調されます。
下図はEXCELでシミュレーションしたものです。和差方式で作成した、L+R+平衝変調出力の包絡線に2L、2Rが含まれており交互に出力を取り出せば変調できることがわかります。変調はプラスマイナス75kHzの範囲とし、パイロットトーン信号が、プラスマイナス7.5kHz(10%)、L+RとL-Rがその残りで45%ずつである。
テスト用にステレオトランスミッタを作成(H16.1.18)
NJM2035を使用したFM-STEREO トランスミッタキット製作
音は、 秋月Ver3とエスケイでは歪まないレベルにトランスミッタのボリュームを上げた場合で、ラジオの出力は0.54Vp-p、2.8Vp-pとなる。明らかにエスケイの方が音量がある。
C点のレベルが1桁ほど違うので、コレクタ電流も1桁ぐらい違う。エスケイの場合ラジカセで限界が生じていると思われる。
レベルの違いは回路は、MPX・PILOTの負荷がエスケイより低インピーダンスであることが原因の一つではないかと考えられる。
秋月は、C-B帰還なので入力インピーダンスは低めに、エスケイはエミッタに帰還抵抗があるので入力インピーダンスは高めになります。
トランジスタの入力インピーダンスにあわせてLPF等のインピーダンスを設定しているわけです。
では計算で入力インピーダンスを求めてみましょう。
秋月
単純に考えると、帰還抵抗100kΩのコレクタ側にはベースの-AV'倍の電圧が加わるため、抵抗間に(AV+1)倍の電圧が加わっているものとみなせる。よって、ベース側から見ると、同じ入力電圧に対して電流が(AV'+1)倍流れているように見える。よって、RBはRB/(AV'+1)に見える。結局、入力インピーダンスは、トランジスタのベース・エミッタ間の抵抗rπと帰還抵抗/(AV'+1)の並列値(記号は//であらわす)となる。AV'は負帰還を行う前の電圧増幅率。
出力インピーダンスは、単純にAV'が帰還抵抗によりAVと成ったと考えるとその分、インピーダンスが下がる。
エスケイ
入力インピーダンス
ベース電流はhfe+1倍されてエミッタ側に発生する。電圧はほとんど変わらずに伝達される。このことからエミッタにつながっているものは、ベースから見ると、電流がhfe+1分の1になるため、インピーダンスが大きくなって見える。ベースにつながっているものをエミッタから見ると、電流がhfe+1倍になるため、その分インピーダンスが小さくなって見える。 つまりエミッタ抵抗はベースから見ると大まかにhfe*REと見える。入力はhfe/gmとhfe*REによって分圧されるため、電圧利得が下がる。大まかな電圧利得は下記のようになる。すなわち、電圧利得がRE・gm分の1になるわけである。一般的にエミッタ抵抗がない場合は、gmRCが電圧利得なので、RC/REが帰還後の利得となる。(hfeが大きく、トランジスタ内部のコレクタ・エミッタ間抵抗が十分に大きく無視できる場合の話)
少しだけ上記の式より精度を上げて計算すると、のようにかなりの違いがでます。
レベルの差もうなずけます。ただ、リアクタンストランジスタのコレクタ電流の変化分をMPX出力9番ピンで割った値は、秋月とエスケイではほぼ同じです。NJM2035から見た負荷が重過ぎると考えられます。
秋月のC点を見るとノイズがいっぱい見えます。
また、入力回路のインピーダンスが秋月は数百kΩとエスケイより1桁高いのでノイズの影響も考えられます。
秋月とエスケイの回路はいずれも電源電圧が低くいせいかリアクタンストランジスタやCobで変調している。9V電池を使ったモノラルのトランスミッタキットはバリキャップが入っているのが確認できた。
リアクタンストランジスタ
秋月
秋月は、MPXからトランジスタにつながっていますが、このトランジスタは、gmを利用してインダクタンス分を発生しています。インダクタンスは L=gmRCで表せ、gm=40ICなので電流が増えればインダクタンスは増えます。一応、ICに比例してLが増えることになります。周波数は平方根で増えるので(f=1/(2π√(LC)))、ICを直線的に変化させると、ひずみが増えます。VBE-ICなので、定電圧でドライブした場合、IC=IS*exp(40Vbe)となります。理想的には電圧の二乗で電流が増えるとベターです。また、電流が増えるとgmが増え インダクタンスが増えるので、周波数が下がることになり、変調する音声信号の電圧が増えると、復調される音声信号の下がる、すなわち逆相となります。NJM2035の出力は反転出力なので、チャラになり正相となります。
Cobの電圧依存を使用した変調・発振
エスケイ
エスケイの変調回路は、チューナー出力で逆相になっていることより、正相であることになります。すなわち信号電圧が高いと発振周波数が上がることになります。おそらく、コレクタ・エミッタ側のコンデンサが帰還回路を形成し、ベース・GND間のコンデンサを等価的にコレクタ電流により変化させていると思われます。
上記の様にエスケイでは逆相で送信されることが判明しました。ステレオで正常に音を聴くには送信側で音声信号を反転させるか、受信側で音声信号を反転させるなどの対処が必要となります。たとえばスピーカーの接続を+ -逆につなぐなど。実用的には、受信側をトランスミッタ専用受信機とするわけではないので、トランスミッタ側で反転回路を設ける必要があります。
なんで、こんなことを記述しているのかというとオシロスコープのX軸に低周波発振器(パソコンで代用)、Y軸にFMチューナーの出力を入力して直線性をチェックしていたのですが、右下がりの線が表示されるため考えていたら当たり前のことに気がついたまでです。確かに音が沈んだ気がしていました。バリキャップの場合、電圧を上げるほど容量が下がるので、反転回路は不要です。
副搬送波キャンセル用の可変抵抗
まず、副搬送波38kHzの漏れを防ぐために11-12ピンに調整用の半固定抵抗を接続する。これにより最良点は設定できますが少しは減ったような気がしますがやはりビートが聞こえます。副搬送波キャンセル用の可変抵抗で何が変わるのかと、9番ピンをオシロで観測してみた。どうやらL+RとL-Rのオフセット電圧を調整するものらしい。それにしても38kHzでスイッチングしているときのパルスが良く見えます。大まかにいれば音声信号の10%以上発生している。LPFを通した後は見えなくなります。調整方法は、無入力時の9番ピンのAC成分の振幅が一番小さくなるように調整すればOKです。この調整によりセパレーションがかわるのもうなづけます。ところで8番ピンの19kHzの方形波をオシロで観測するとデューティ比が50%でないところが気になります。LOWの時が1割ほど幅が広くなっています。9番ピンのスイッチングのパルスを観測していると正確に50%になっているようです。同調回路を3300pF、22mHとした場合、BPFの位相は10度ほと進んでいるようです。
BPF・LPFにコイルを使った本格的な回路を試用(秋月改)
秋月Ver2+NJM2035の奨励回路をアレンジして作成してみました。副搬送波キャンセル回路・19kHz BPF・57kHz LPFを別基板で作って秋月キットと接続しました。明らかにビートが少なくなりました。が、ひずんだ感じで音量がもっと欲しいです。2SC1815で変調するのをやめて可変容量ダイオードを使用することにしました。2SC1815のベース側の470pFをはずし、コレクタに10kΩの抵抗を接続し反対側に1SV147をつなぎました。1SV147は5pFを介して同調コイルに接続します。結果は、音量が格段にアップし音質も良くなりました。ただ、半固定抵抗が6個あるのですが最良点がわかりません。奨励回路に周波数偏移をいくつにすると書いてあっても測定する方法が無いので、放送局と音量・音質を比較するしかわかりません。ラジオの音量を上げると若干のビートが聞き取れます。また、TVの近くに置くとTVの電磁波を受けるらしくビートが大きくなります。水平同期信号の高調波が干渉しているのでしょうか。8番ピンの信号(副搬送波)の配線を外して電波を出してみて受信するとやはりビートや雑音が発生している。もちろんラジカセのステレオランプはつかないが手をBPF・LPFに近付けるとなんとステレオランプが点灯します。もれている副搬送波で変調されているのでしょうか。
YUPITERU MVT-7000では、ビート等が聞こえなかったような記憶があるので、ステレオ信号が悪さをしているのは確かです。このラジカセの復調回路に問題があるのかもしれません。帯域が広すぎてしかも直線性が悪いとか。
.Ac dec 1000 14k 24k vin 1 0 ac=1m rs 1 2 3k c1 2 3 0.1uF r1 3 4 39k r2 4 5 39k cs 4 0 {c} l1 4 6 22mH rll 6 0 92 rl 5 0 50k .PARAM c=1 .STEP PARAM c LIST 3024pF 3183pF 3342pF .probe .end |
19kHzのBPFで同調用のコンデンサを5%ずつ変えた場合のf特と位相特性です。(Pspice)
5%ずれるだけで、19kHzの位相が20度近くずれます。38kHzに換算すると40度なので、ラジオの復調回路でスイッチングするタイミングがずれるため、L+RにL-Rの信号がL-RにL+R信号がそれぞれもれるのでチャンネルセパレーションが悪くなります。このことから、このBPFの位相特性は非常に重要であることがわかります。データーシートのL信号のみ入力してラジオのL信号が最大になるときとは、すなわちNJM2035がスイッチングしているタイミングとBPF出力の位相がぴったり合ったときということになります。ちなみにこのBPFは、19kHzの方形波から高調波成分を除去して正弦波にするのが目的ですが、周波数が接近しているのでLPFを使うと19kHzの位相が回ってしまいます。入手できるコンデンサーの精度が5%程度なので調整は避けられないことになります。無調整にするためには19kHzの正弦波を先につくって、それを倍周し6番ピンに接続します。パイロットトーン信号は、NJM2035を使用せず19kHzの正弦波を加えます。こうすれば経時変化による位相ずれとうによるセパレーションの悪化を防ぐことも出来ます。ただ倍周回路が必要になるため複雑になります。スイッチングのタイミングを得るためにジッタが発生する可能性もあります。
上がデーターシートの回路、真中が秋月のものです、歴然とした差があります。下が秋月の位相特性です。際立った高調波除去能力はないですが、19kHzの位相は6度程度ですんでいます。
入力回路
秋月の場合、プリエンファシスは、510kと100pFで決まり時定数は51μsとなります。LとRの入力感度は、入力抵抗で決まり39kと510kから最大で、4.1μA*(39K+510K)=2.25Vpとなります。
エスケイにBPFとLPFを組み込んだ回路1
回路変更点
秋月にくらべてデーターシートに近い定数となっています。秋月と同じくBPFとLPFを追加しました。秋月より深い変調をかけられますが、ビート音等は気になります。
エスケイにBPFとLPFを組み込んだ回路2
青書きの電圧がDC分、赤書きがAC分である。
BPFを追加した後のパイロット信号の波形を見てみると正弦波が上下非対称となり歪んでいました。NPNのみのエミッタフォロワでドライブされており上下非対称のドライブ能力となっています。コンデンサでエミッタフォロワと直流的に分離したところ、波形は上下対象になりましたがやはり歪んでいます。また出力が小さいため、ステレオランプの点灯が不安定になるときがありました。パイロット信号の変調度は10%であり、リアクタンストランジスタが歪む電圧の5%ぐらいの変調しか掛っていません。もともと通常の放送局より変調度が浅いと感じていますので、パイロット信号の変調がかなり浅いと思われます。BPFの負荷が5kΩと重いため、エミッタフォロワを追加したところ BPFの負荷が軽くなり、正弦波で出力も上がりました。10kΩの抵抗を介して接続しました。これによりビート音が激減しました。セパレーションを測定したところ、28dB程度になりました。電源投入時からししばらく発振周波数がドリフトします。PLL方式のチューナーの大半は100kHz置きであり、チューニングを1回取り直す必要がありました。落ち着けば半日ぐらい実用上問題なく使えました。数千円のラジカセのヘッドホーン出力をオシロで測定するとパイロット信号等が盛大にもれておりました。FMステレオチューナである、KENWOODのKT-7020の出力を測定すると、きれいな波形が得られます。ビート音等も明らかに少ないです。副搬送波キャンセル用の半固定抵抗以外は、全部最大位置で問題ないので、同値の固定抵抗に置き換え可能です。
FMステレオ送信機とチューナー出力でのf特を測定したのが下図です。チューナーのf特が含まれているため、参考までにチューナーのカタログ値を記載します。
周波数特性:20~15000Hz +0.5dB,-0.5dB
高域のレスポンスが下がり気味な点が気になります。
今後の改良するなら(NJM2035を使用する前提)
変調をリアクタンストランジスタからバリキャップに変更する。
秋月に比べればエスケイは深い変調が得られるが、一般の放送に比べると変調度が浅い点と直線性の悪さが気になる。また、逆相なので音が引っ込んだ感じになっているので、逆相とならないようにする。この点もバリキャップにすると改善される。
f特を改善する
NJM2035の入力側では高域はプリエンファシスにより上昇しており、高域の減衰はMPX後の19*3=57kHzを減衰させるLPFによるものと思われる。フィルタの定数・回路の見直しを行い、38+15=53kHzまでの減衰を少なくしそれ以上を急に遮断させる。かなり大規模になりそうな気がする。または、入力側のプリエンファシスをやめてMPX後にLPFとプリエンファシスの合成特性をかけるなど(プリエンファシスにより高域側の余裕が少ないため入力を絞らざる得ないため出力側で調整するように考えた。かなりの回路規模が予測される。)の検討を行う。
MPX後のエミッタフォロワ等の改善
フィルタ後を高インピーダンスにすることにより、エミッタフォロワを1個にするとか、増減に対して対称にドライブできるようコンプリ化するなど。
ただ、NJM2035自体のひずみ率は実用性は問題ないが、そんなに良くないので不釣合いかもしれない。
発振周波数の安定性
LC発振のため電源投入後1回チューニングを取り直さなければならない場合がある。水晶発振としたいが、都合の良い発振周波数の水晶が見つからない。周波数変換回路を前提かPLL等を検討する。できればVCOにMPX信号を注入するのではなく、別に変調回路を設け、ロックスピードと低域のf特を両立させたい。以上を踏まえるとNJM2035でMPX信号を作成するよりもディスクリート回路で行ったほうが良い気がする。
NJ2035データーシート
2SK192A
1SV147