10年間稼動している自作ソリッドステートアンプの紹介2

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概要

6畳程度の一人暮らしの集合住宅向け小出力で音のよさそうなトランジスタで構成したアンプを 10 年ほど前に構築した。左チャンネルの調子が悪くなったので動作等を検証しながら再構築した。したがって、今あるアンプの設計を検証しながら更なる改善をする。

旧アンプの解析

電源部

汎用のトランスを用いた。電圧段は二次側の巻き線が2回路あるトランスを用いた。
出力段は、手ごろなトランスが無かったので、正負それぞれ1個ずつ使用した。
いずれも正負独立した整流回路を設け、正負それぞれの干渉を少なくした。
出力段の電源についてシミュレーションしたところトランスの容量が足りないため、実測で片側のみ最大出力では 5.6Vp(1kHz 8Ω)、両側では推定で1W*2といったところである。平滑コンデンサの容量は4700μF以上では大差ないため、6800μFを使用した。トランスの内部抵抗は実測で0.86Ω程度であった。 しかるべくトランスを用意すれば両チャンネル2Wの出力が可能であろう。

出力段

必要な出力を8Ωで2Wとすると、
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アイドル電流は実測で0.013Aであった。(2SC1161*2+2SC1775でバイアス回路を構成した場合)

2SD669

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2SB649

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電圧利得

パワー段の入力インピーダンスは、 コンプリメンタリエミッタフォロワなので、電流の向きを別にしてエミッタフォロワを並列に接続した場合と同様である。負荷は2つのトランジスタでドライブされるので、1つのトランジスタからは、倍の負荷抵抗に見える。NPN側の入力インピーダンスとPNP側の入力インピーダンスを並列に接続されたと考えられる。同一の特性のトランジスタであれば、通常のエミッタフォロワと同様に計算できる。
エミッタフォロワの入力インピーダンスは、エミッタにつながっている負荷をベースから見るとエミッタ電流の1/(hfe+1)倍となるため、大きな抵抗に見えZin=rπ+RL(hfe+1)となる。
出力インピーダンスは、エミッタから見ると、ベースに流れる電流のhfe+1倍となるため、小さな抵抗に見え、Zout=(rπ+RS)/(hfe+1)となる。電圧利得は、エミッタ接地回路に電流帰還がかかっていると考え、gmRL/(1+gmRL)となる。
hfe’=2/(1/hfe1+1/hfe2)=2/(1/200+1/210)=204.9
gm’=80*13mA=1.04
rπ’=204.9/1.04=197.02
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ドライバー段の出力インピーダンスが0と仮定した場合
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ドライバー段と出力段におけるドライバー段の出力インピーダンスと出力段の入力インピーダンスによるゲインの低下はドライバー段で考慮することとする。

ドライバ段

2SC1775

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2SA872

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ドライバー段の入力インピーダンスは、出力段のインピーダンスを負荷としたコンプリメンタリエミッタフォロワとなり、計算式は出力段と同じである。
等価トランジスタ、hfe’=2/(1/hfe1+1/hfe2)=2/(1/750+1/500)=600
gm’=80*3.64mA=0.291
rπ’=600/0.291=2.061.9k
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出力段に用いているトランジスタは、普通ドライバ段に使用する石でありドライバ段に使用するトランジスタは普通の電圧増幅段に使用する石である。よって、小電流時のリニアティーは良いが、大電流時はリニアティーとコレクタ・エミッタ間の飽和電圧が高いため大きな電流が流せない。2段コンプリエミッタフォロワを三角波や正弦波でドライブしてオシロスコープで直線性を観測したが、2W程度までは問題なさそうである。

2段目

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カスコード用トランジスタのベース電圧と温度特性が同じで温度係数が最小になる、5.6Vを使用する。
入力インピーダンスは、
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Cob=2pF
2段目の出力インピーダンスは、カスコードとカレントミラーの出力抵抗の合成値である。
カスコードの出力インピーダンスは、ベース接地の回路の入力側に差動増幅回路の出力抵抗が見えるので、これが帰還抵抗となる。よって、帰還量は
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カスコードの出力インピーダンスは、カスコード用のトランジスタの出力抵抗の帰還量倍となるため、
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となる。一方、カレントミラー回路の出力抵抗は、
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となる。これらを合成すると、
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カレントミラーの入力側はVCEが少ないため、飽和特性が悪いトランジスタでは電流の誤差が多くなる。カレントミラーのエミッタ抵抗は、実測より直線性が良くなる95:100とした。

初段

カスコードFET差動アンプでソースには定電流回路を使用します。
定電流回路はトランジスタのVBE温度特性と逆の特性をもつ5.6Vのツェナダイオードを使用します。
実際の回路の測定結果より、ID=0.504mA VGS=-1.228VよりVGS-IDグラフより推定するとIDSS=3.5mA Vp=-1.85V 動作電流は、
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となります。
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負荷抵抗は、2段目の動作点を決めるため、電圧降下を1V以上、また初段に利得をもたせることより3.3kΩとした。
規格表より Cis=8.2pF Crs=2.6pF

周波数特性

初段と2段目の間(位相補正前)

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初段の利得は
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ドライバー段と出力段の間(位相補正前)

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先のとおり、ドライバー段の出力インピーダンスはL性となる。ただし、信号源インピーダンスが高く、エミッタフォロワのCobや信号源の容量成分が支配的になる場合は、出力インピーダンスはC性になる。一方、パワー段の入0力インピーダンスは高域でhfeが低下するためC性となる。ドライバー段の出力インピーダンスがL性の場合、これらは共振回路を形成し、発振の要因となる可能性がある。つまり、ドライバ段にCobの極端に小さいトランジスタを接続し、信号源インピーダンスが低い場合、これらのポールよりトランジスタのhfeが低下する周波数が低いためL性となる。
hfeは高域で低下するため出力インピーダンスは高域で上昇する。
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一方、ドライバー段の入力側のポールは、後述の67.6kHzなので、ドライバー段の出力インピーダンスはC性となる。
電圧利得は、エミッタが増えればエミッタ電位があがりベースエミッタ間の電圧が下がるためNFBがかかっている。エミッタフォロワ時のゲインは1以下なので、カットオフ周波数は非常に高域になるため、とりあえず無視する。NFBをかける前は、エミッタ接地回路と同様にゲインはgmRL=2*40*13mA*8=8.32である。これがオープンゲインである。一方、エミッタフォロワのゲイン、すなわちクローズドループゲインは、
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出力段は、1844.2Ωで、hfeの低下周波数は
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2段目とドライバー段の間(位相補正前)
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2段目の利得は
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初段とNFB回路間
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全利得

オープンループ

1.1682*104,767*0.9981*0.8927=109049

クローズドループ

11倍

周波数特性

fc1=67.6kHz -6dB/Oct 45度
109049倍

2段目

fc2=471kHz -12dB/Oct 127度  15650倍

1段目

fc3=4.13MHz -18dB/Oct 219度 203倍 入力
fc3=10.9MHz 294度 11倍 クローズドループカットオフ周波数
fc4=24.3MHz

オープンループ

クローズドループカットオフ周波数までに3個のポールがあり位相が294度回っているので確実に発振する。
よって、この状態では、クローズドループカットオフ周波数は、位相余裕を60度とすると残り120度であり、2個目のポールが30度までしか回ってはならない。一般的な2段目のミラー効果を使用した、位相補正を掛けた場合、補正容量 5pF ぐらいで、f特が素直になる。 C*(AV+1)=5pF*(104767+1)=0.5238μF の容量が1段目の負荷となる。
Fc=1/(2*π*1637*0.5238μ)=182Hz
初段のポール
2段目とドライバー段の間は5pFによるミラー効果は、2段目の利得を182Hzから6dB/octで低下させる。その結果、位相補正前とのゲイン交差点が、2段目とドライバ段の間のポールになる。およそ 22MHzぐらいになる。これは2段目の出力インピーダンスが位相補正容量による NFBにより低下したことになる。すなわち2段目の出力抵抗はC 性となる。
ポールが次のように移動したことになる。
67.6kHz → 22MHz
471kHz → 182Hz
ただし、22MHz 付近にポールが別にあるため、急に位相が回るので、危険である。
位相補正前の2段目は 471kHz がポールで、位相補正容量との関係は下記のとおりである。
5pF 1.8MHz 90度 185Hz 30.4MHz
10pF 910kHz 90 度  92Hz 10.6MHz
20pF 460kHz 90 度 46Hz 5MHz
初期バージョンでは 20pF の位相補正を施している。  0 pF 5 pF10pF 20pF

改良等

2段目負荷抵抗

2段目には、初期バージョンでは抵抗器を使用していない。仮にエミッタフォロワをつないでいないときは、 NFB 無しでは、2段目の出力電位は決まらない。±電源からの変動を受けることになる。 NFB を掛けることによって、初めて電位が決まる。
 また、エミッタフォロワは、負荷インピーダンスによって、入力インピーダンスが変化するため、2段目のポール等が複雑に変化することになる。一方、ここに負荷抵抗をつなぐとゲインが下がるため、 NFBによるひずみ低減効果が減少し、全体のひずみが多くなる。ここでは、やはりオーディオ帯域でできるだけ NFB量を一定にして音色を一定にしたいので、負荷抵抗を接続する。

NFB抵抗

NFB抵抗については、初段の入力容量によりポールを生じるため、1桁減らすこととした。

ドライバー段

このアンプは小出力と引き換えに小信号用のデバイスを用いて音がよくなるように考えたアンプである。ドライバ段は飽和しやすいので、電源を電圧増幅段に接続する。これにより VCE(sat) が原因でパワー段をドライブできなくなることはないだろう。

初段

ソースにDCオフセット調整用の可変抵抗を挿入しているが、これを初段の負荷抵抗に接続する。よって電流NFBが掛からないので、利得が増える。
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2段目

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ドライバー段と出力段の動作

出力段は下記のようなC性となる。
R=1844.2 C=200.7pF
ドライバー段の出力インピーダンスは、入力側のR成分に対してC成分の比率が大きいので、L成分が発生する。
特性は f=285.8kHz R=11.25
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よって、4.49MHzにピークを生じる。
この影響は2段目の負荷インピーダンスに現れる。これを消すには、ドライバ段のCobを増やすとドライバー段を容量性にできる。2pFもパラレルにつなげばピークはつぶせる。通常ではここにCをつながないが、通常よりCobの少ないトランジスタを使用した影響である。周波数特性は、初段の利得はほとんど変わらないので、オープンループカットオフ周波数は変わらない。

オープンループ

1.21144*1442*0.9981*0.8927=1556
fc2=471k -6dB/Oct 1556倍 45度
1段目
fc1=4.913MHz -12dB/Oct 149倍 135度
2段目
(2.9758MHz)246
fc3=10.9MHz 11倍 155 度
fc4=24.3MHz 1
この状態では、10.9MHzで155度になっているためピークが生じる。
2段目にミラー効果による位相補正を試みる。

0pF 1pF 10pF 20pF 100pFと位相補正容量をかえてシミュレーションをしたところ5pFでも発振はしないが、10pFと余裕をもたせた。カレントミラーの入力側の差動回路の位相補正容量については、高域では、1:2の方が差動アンプのバランスが良くなる。

動作点の再検討

初段カスコード

VCE=23-3.3k*0.532mA-5.6+0.6=21.8V IC=0.532mA RL =3.3k rl=1637
2段目カレントミラー
VCE=23-100*3.852mA=22.6V IC=3.852mA RL=9.4k
ドライバー段
VCE=23-0.6=21.4 IC=3.64mA RL=1844
2段目差動
VCE=5.6V-0.6V-3.3k*0.532mA-0.6=2.644V IC=3.852mA
カスコード
VCE=23-5.6+0.6=18V IC=3.852mA RL=9.4k
ドライバー段
VCE=23-0.6=21.4V IC=3.64mA RL=1844

VCE=6V IC=0.02A RL=8

出力段の直線性が気になるところである。
IC=0.4A程度が限度のようである。
実際には、NFBによりIC=0.7Aまで強制的にドライブできてしまう。
VCE(sat)はIC=10IBで測定しているので、明らかにドライバ段のICmaxを超えそうである。よって、ドライバ段のトランジスタの動作電流を軽くするために、出力段の電源電圧を増やすことを検討する。ほしい出力が2Wなので、出力は5.6Vp 0.7Ap必要であり、動作点は、12Vが最低となる。よって、直流出力で12V 0.7A*2=1.4A マルチアンプで2wayなら2.8A必要である。出力段の電源電圧が倍近くになったため、熱計算を再度行う必要がある。
7V電源時 7*0.013+7^2/(2*8)*0.2=0.70W
放熱板を使用しないときのトランジスタの熱抵抗は(150-25)/1W=125℃/W
使用可能周囲温度は、150-125*0.7=62.5℃ となりもう少し安全性がほしいところである。よって初期バージョンは放熱板をつけている。
12Vまで出力した場合 12*0.02+12^2(2*8)*0.2=2.04W
放熱板への取り付け熱抵抗を1℃/Wとすると
150-2.04*(125/20+1+8*2)=102.6℃まで動作可能となる。
トランジスタの特性図は元日立のページから転用しました。
cir1.svg
回路図ファイルdxf形式をzipで圧縮 amp.zip