山本ワールド
10年間稼動している自作ソリッドステートアンプの紹介
初段
このアンプは約3年ほどの歳月をかけて少しずついろいろ実験しながら最終的に作成したものです。
基本は当時の金田式アンプをベースにし入手性の悪いデバイスは標準的で他のアンプに使われている型名を参考にして作成しました。寮に住んでいるので音量は追求せず、出力は数ワットもあればOK。そのかわり小型のデバイスで音質のよさそうなものでそろえました。位相補償については、Pspiceにてシミュレートを行い、オシロスコープで発振をしていないことを確認して決定しました。ドライバー段が高周波特性の良いトランジスタを使用している関係でポールが接近するのでここのエミッタフォロワにも位相補正を施している点が変わっている程度です。なにせ出力を稼いでいないので通常のドライバーが出力段に使用しているからです。当時のパソコンはPC9801UV2(V30 10MHz+8087 通常は8MHzしか使えないのですが改造をして無理やり10MHzで動作させています。)でシミュレートを行っていたので結果が出るのに時間がかかりました。今なら一瞬です。入力ソースは当時CDプレーヤーしか持っていなかったので利得は11倍としました。1年程前まではチューナー DCCプレーヤ パソコン 自作DAC等つなげるだけつないでいました。写真は、測定のために蓋をはずした状態です。写真には、トーンコントロール回路とヘッドホンアンプも写っていますが現状では使用しておりません。上の左から2枚がそれぞれパパわーアンプの基板です。その右隣が電源回路、下の左がトーンコントロール回路、右がヘッドホンアンプとトーンコントロールとヘッドホンアンプ用の安定化電源です。音量のコントロールにはアルプスデテントボリュームを使用しています。10年たってもガリオームになっておらず良品だと思います。でも現在は製造しておりません。これは、秋葉原の三栄無線で手に入れました。
部品については名古屋の大須のアメ横と位相補正等の小容量のディップマイカーとボリュームは秋葉原でそろえました。
回路は1段目J-Nch FET 2段目がPNPのトランジスタの差動アンプに2段のエミッタフォロワを接続する、簡単なものです。差動アンプは2段ともカスコード接続にしています。2段目の差動アンプはカレントミラーにて能動負荷としています。
初段
初段は2SK30A+2SC1775による差動アンプとしています。初段の2SK30Aの動作点は、2SC1775による定電流回路で決まります。
実際の回路の測定結果より、ID=0.504mA VGS=-1.228VよりVGS-IDグラフより推定するとIDSS=3.5mA Vp=-1.85V
差動アンプは2つの入力を持ち、2つの入力の差を出力します。
通常のソース接地のアンプの電圧利得は、 となります。gmは入力電圧に対して出力電流がどれだけ変わるかを現したものです。たとえばgm=1Sとすると、ソース電圧が1mV変化した場合、ドレイン電流は1mV*1S=1mA変化します。ドレインに抵抗をつなぐことにより電流の変化を電圧の変化に直します。
ただし電圧利得の式は、2段目の入力インピーダンスを無視していますので、実際は、2段目の入力インピーダンスが負荷抵抗とコレクター抵抗と並列につながりますので2段目の入力で測定される電圧は少なくなります。
カスコード接続しているので、FETのドレイン電圧の変動が少なくなり、VDS-ID特性の影響を受けなくなります。また、ミラー効果を受けなくなります。ただし、利得がほとんどないので大した恩恵はないでしょう。
差動アンプはソース接地を2回路用意しソース同士を接続したような回路です。両方の入力に同じ電圧を加えた場合(同相入力 コモンモード)、両方のソース電流が増え、ソース電位があがるため、ゲート・ソース間電位が下がり、ソース電流を下げて、出力を下げる方向に働きます。両方の入力に逆方向(逆相入力 差動モード)の電圧を加えた場合、お互いのFETに対して入力電圧と同じ様に電流を流そうとするため、+を加えたほうはより、電流を流そうとし、-を加えたほうはより電流を減らそうとします。このことにより差動アンプとなります。
差動アンプの性能をあらわす方法に、 というのがあります、OPアンプのカタログに載っています。この値を増やすには、ソース抵抗を増やす必要がありますが、電源電圧や部品の耐圧が限られるため、定電流回路を接続しています。この回路は加わる電圧が変わっても絶えず一定の電流を流すように働きます。FETやトランジスタはシャープカットオフ特性のため、ある程度の電圧を加えれば、電圧に対して電流がほとんど変化しない性質があります。たとえば定電流ダイオードはFETのゲートとソースを接続したものです。ここでは、定電流値が自由に設定できるようにトランジスタを使用しました。基準電圧は、5.6Vとしました。確か温度特性がトランジスタと逆になるため定電流回路の安定性を高めることができます。エミッタ抵抗により帰還が掛かるため、もともとのコレクタ抵抗の帰還分出力抵抗が増えます。エミッタ電流が増えればエミッタ抵抗の電圧が増えベース・エミッタ間電圧が減ってエミッタ電流を減らします。帰還量はエミッタ抵抗にほぼ比例します。
初段は差動アンプなので、片方に入力を加えて、片方から出力を取り出した場合は、ソース接地アンプの半分の利得となります。両側から出力を取り出せば、ソース接地と同じとなります。
2SK30Aのの動作点は、
となります。20個買って来て、2ID以上のもののからペアーを選びました。
2段目のVBをVccから1V以上確保するためには、1.8k以上必要です。余り大きくすると2段目のフルスイング電圧が減ります。
また、1段目のベース接地アンプのベース電圧は、2SK30AがVDS-ID特性が直線的な領域で使えるようするためと温度特性がトランジスタと逆になる5.6Vとした。この電圧をあまり上げると漏れ電流が増える。
負荷抵抗は3.3kとした。
2段目
差動アンプとし、出力はGND基準になるようにPNP型トランジスタを使用する。初段が差動出力なので、エミッタは抵抗のみとした。カスコード接続とし、安定性と直線性を高めるためにカレントミラー回路を使用する。
gmは小信号時はどのトランジスタでも同じ値を示し電流に比例し温度の影響も受けます。簡易的にgm=40ICで表せます。
rcはトランジスタのコレクター抵抗で、VCE-IC曲線の傾きを表します。この場合は30kΩ程になります。
2段目の動作点は、
入力インピーダンスは、
2段目を接続した時の1段目の利得は
電流増幅率が高域で下がるのは主にベース・エミッタ間の容量であり、hfeが1になる周波数をftとすると、カットオフ周波数はft/hfeとなり、カットオフ周波数は入力抵抗と入力容量によって決まります。よって、帰還量は
2段目の出力インピーダンスは、カスコードとカレントミラーの出力抵抗の合成値である。
カスコードの出力インピーダンスは、ベース接地の回路の入力側に差動増幅回路の出力抵抗が見えるので、これが帰還抵抗となる。よって、帰還量は
となる。
カスコードの出力インピーダンスは、カスコード用のトランジスタの出力抵抗の帰還量倍となるため、 となる。
一方、カレントミラー回路の出力抵抗は、 となる。
これらを合成すると、 となる。
カレントミラー回路については、トランジスタのVCEが左右で異なるため、同じエミッタ抵抗の場合、右側のほうがたくさん電流が流れます。(左側が非飽和領がラー効果が飽和領域で動作している。)よって、左側のトランジスタのエミッタ抵抗を減らしてバランスさせています。位相補正については、左側は、負荷は非常に低いので利得が無く、ミラー効果が生じないので位相補正がいらないような気がしましたが、シミュレーションしたところ、半分の容量をつないだときが位相の回り方がきれいだったのでそのようにしております。
ドライバー段
コンプリメンタリエミッタフォロワとする。
バイアス回路は、ドライバとパワー段に熱結合させたトランジスタによる。
ドライバー段の動作点は
2SC1775
2SA872
パワー段
実測でIC4=13mAであった。
2SD669
2SB649
ドライバー段の入力インピーダンスは、 である。
2段目の利得は、 となる。
ドライバー段の出力インピーダンスは、
パワー段の入力インピーダンスは、
簡単なアンプのモデルを作成してシミュレート(シミュレーションファイル amp.cir)すると、
紫色が、位相補正容量が無い場合であり、6.43MHzにピークが出ており発振しています。
水色が、位相補正容量2pF、緑色が10pF、青色が20pFです。下図がオープンとクローズドループそれぞれをグラフにしたものです。
位相が180度回る前に利得を位相補正により1以下にしています。位相補正の効果により、100kHz以上の位相が回らなくなります。これは、利得がある周波数の範囲のポールが利得の無い周波数に移動したからです。なお、実際に組み立てたところ発振したのでエミッタフォロワにも位相補正容量を付けています。
最大出力は、電源が7Vなので、1V程度ロスがあるとすると
ただし、飽和電圧が高いトランジスタを使用しているので、直線性を考慮するとせいぜい3Vp出力程度でしょう。すると約0.56Wとなります。私の部屋は狭くて壁も薄いのでこの程度で困ることはありません。出力を稼ぐには電源電圧を増やせばよいでしょう。
回路図ファイルamp.dxf